雑誌 『企業診断』 掲載の原稿(2003年執筆)
マイウェイ 活躍する若手診断士 「一歩、一歩。」
社会人として初めての会社で、私は株式公開準備室 兼 経営企画部に所属していた。中期計画や予算実績管理、内部監査制度の確立から実施、社内規程や業務フローの整備等など、次から次へ任された仕事はどれもやりがいがあり、自分が一から考え、提案し、運営まで管理するという創造的かつ責任の重い仕事ばかりだった。
ところが、初めは面白かった仕事も、締め切りや目標に追いかけられるようになり、だんだんと辛くなった。辛くなれば仕事の出来も悪くなり、また仕事に追われるという悪循環が始まった。株式公開が延期され、緊張の糸が切れたとき、私はそこで仕事を続ける気力をなくしてしまった。正直言ってギブアップしたのである。
その後、転職した外資系の企業では、経理部に配属された。仕事は、請求書の発行と伝票集計。一度覚えればたいした努力を必要としない繰り返しの単純作業で、月末以外は残業がほとんどなく、それでいて給料は申し分ないと当初は大満足だった。ところが、しだいに社内のいろいろな問題点が目に付くようになり、それを解決するような仕事、会社の経営にかかわるような仕事がしたい、との思いが強くなった。ふと気がつけば、私がやりたがっていた仕事とは、一度はギブアップした以前の会社での仕事そのものだったのだ。
今度こそ放り出すことなくやり遂げたい。でも、どうやったら私の希望はかなえられるだろうか、なにかアピールする手立てはないだろうか。
いろいろ調べた結果、中小企業診断士の資格をとったら認めてもらえるのではないだろうかと考えたのである。ところが、勉強を始めてすぐに1次試験に合格し、会社にもいろいろ掛け合ったものの、開放的で進歩的と思っていた会社は、思いのほか閉鎖的で保守的だった。
結局期待したような結果は得られず、進路を悩んでいたとき、中小企業診断士の勉強をサポートしてくれていたコンサルティング会社に縁があり、再度の転職に踏み切った。コンサルタントとしては、まったくの初心者だったにもかかわらず、その会社は2年半に渡り、私にいろいろなチャンスを与えてくれたのである。
さらに、この春ようやく中小企業診断士の登録が実現し、周囲に非常な心配と支援をいただきながら、コンサルタントとして独立を果たした。
新たなスタートラインに立ち、これまで蓄積してきた経験と反省を基に、また、多くの方々の支援が、それぞれの岐路で未熟な判断の助けとなってくれたことを感謝しつつ、自分が中小企業診断士として、また一人の人間として何ができるのか模索する毎日である。
関わるのは自社の経営ではなく他社の経営かもしれない、また、いろいろな寄り道をして時間をロスすることがあるかもしれない。振り返ってみたとき、すべて100点満点とはいかないが、私は目指す方向に向かって確実に進んでいるという実感を持っている。これまでも、これからも、一つとして私にとって不要な経験は無いと信じている。一歩一歩、自分の足で歩いているということを自覚し、その一足ごとの感触と責任を確かめながら、立ち止まることなくこれからも進んで行きたい。